タンチョウは白目をむかない
吉野智生(釧路市動物園 ツル担当主査)
ツルセンターや動物園でお客様を案内したり、歩いたりしていると、時々タンチョウに、「こっち向いて」などと声をかけている方がいらっしゃいます。さて、タンチョウがこちらを向くとはどういう状態でしょうか。
鳥類はエサや外敵を見つけるために視覚が発達しています。眼球は大きく、頭蓋骨(とうがいこつ)に眼窩(がんか)という凹みがありますが、そこにすっぽりはまり込むようになっています。何かを見る時、人間は目線が動きますが、鳥は眼ではなく首を動かします。また人間の眼は顔の前方にありますが、ほとんどの鳥類では顔の外側というか横についています。なお、どうでもいい話ですが、鳥は人間のように眼球を動かせないので、白目をむくことはありません。白目をむいているように見える時がありますが、それは瞬膜という、まぶたの内側にある透明または半透明の膜が見えているのです。例えばまばたきをしたり、水中に顔を入れたときに目を保護したりする時に見えます。
両眼でものを見ることを両眼視と言いますが、この場合一度に見渡せる範囲(視野)は狭くなります。代わりに物が立体的に見え、距離感がつかみやすくなります。例えばフクロウやタカ・ハヤブサなど猛禽類の眼球は、前方を向いているので両眼視できる範囲が広く、獲物を追いかけて捕まえるのに役立ちます。スズメやハトなどは、顔の横に目があるので両眼視できる範囲は狭いのですが、その代わり片眼で広く見渡せるので視野が広く、敵をすぐ見つけることができます。
タンチョウも小鳥と同じように眼球は顔の外側についているので、両眼視できる視野は猛禽類より狭く、片眼で周りを観察することに向いています。時々首をかしげているのは上空を見るためですし、歩くときに首を振るのは、移動時に見ている風景がブレないようにするためで、よく見ると頭の位置はあまり変わりません。彼らが横を向くのは、実はきちんと見るためなのです。そのため、実はすでにお客様の方を向いていることになります。なお、人間の方に近寄ってきて顔を正面から向けたということはつまり、つつくつもりだということです。おそらく頭は真っ赤になって興奮しているでしょう。危ないので、近づいたり柵に手を触れたりしないでくださいね。